2026年の災害用ドローン 求人トレンド|「予算はついた、飛べる人が足りない」ねじれから需要の行き先を読む

災害用ドローンの分野は、数字の読み方を間違えやすい領域です。市場規模だけを見ると伸びていますが、災害調査そのものは年間を通して発生する業務ではないため、市場の伸びがそのまま求人数になるわけではありません。
一方で、公表資料をたどると明確なねじれが見えます。国の財政措置は機体・資格・運用の3段構えでほぼ揃った一方、消防庁の調査で最大の課題として挙がっているのは「人」です。この記事では、そのねじれから需要がどこへ向かうのかを読み解きます。
近年の変化と背景
変化1:財政措置が「機体」から「資格」まで広がった
災害用ドローンに対する国の支援は、段階的に対象を広げてきました。公表資料で確認できる流れは次のとおりです。
| 時期 | 措置 | 対象 |
|---|---|---|
| 令和4年度から | 緊急防災・減災事業債 | 地方公共団体が災害対応ドローンを調達する費用 |
| 2024年から | 緊急防災・減災事業債 | 防災部局が整備・管理・運用するドローンのソフト・ハード両面(充当率100%、交付税算定率70%) |
| 令和7年度から | 特別交付税措置(措置率0.5) | 消防職員・消防団員のドローン操縦資格(国家資格)取得経費 |
出典:総務省消防庁「消防の動き」令和4年2月号、北海道「災害時ドローン活用ハンドブック」(総務省資料を引用)、消防庁 令和6年12月27日事務連絡
注目したいのは3段目です。消防庁が令和6年12月27日に発出した事務連絡「令和7年度地方財政措置(消防庁関係)」では、「消防職員及び消防団員のドローン操縦資格の取得を通じた災害対応能力強化」として、国家資格の取得費用そのものが財政措置の対象になりました。
その背景として、同資料には令和6年能登半島地震で道路の隆起や亀裂等による通行障害が発生したことに加え、夜間にかけて災害が発生したため、有人での対応が困難な条件下におけるドローン飛行による情報把握の必要性が再認識されたと記されています。
そして対象範囲の注記が、求められる水準を示しています。
> ※消防職員は、「一等無人航空機操縦士(夜間・目視外の限定変更)」に限る
機体を買う支援から、人を育てる支援へ。これが2026年を見るうえでの最も大きな変化だと考えられます。
変化2:「人員不足」が公表データ上の最大の課題
消防庁が令和4年2月の「消防の動き」で公表した調査(令和3年6月1日時点)では、ドローンを活用している消防本部は383本部(活用率52.9%)でした。推移は次のとおりです。
| 時点 | 活用している本部数 | 活用率 |
|---|---|---|
| 平成29年 | 70本部 | 9.6% |
| 平成30年 | 116本部 | 15.9% |
| 令和元年 | 201本部 | 27.7% |
| 令和2年 | 309本部 | 42.6% |
| 令和3年6月1日 | 383本部 | 52.9% |
※これは筆者が確認できた消防庁の公表調査のうち最新の数値です。その後も導入は進んでいると考えられますが、同一基準の最新値を一次資料で確認できなかったため、現在の水準については断定を避けます。
同調査で挙げられた課題の回答本部数は次のとおりでした。
| 課題 | 回答本部数(重複あり) |
|---|---|
| 操縦者の育成や運用体制上の人員不足 | 59 |
| 機体性能に不足(全天候型、長時間バッテリー等) | 18 |
| 墜落等の安全面の課題 | 13 |
| 他機関との調整、住民への周知 | 6 |
| カメラ性能に不足(赤外線、ズーム、偏光等) | 2 |
機材の課題(18本部)より、人の課題(59本部)が3倍以上多い。これが「予算はついた、飛べる人が足りない」というねじれの実体です。
なお同調査では、活用実績のある288本部の累計活用件数として、火災調査1,896件、救助活動・捜索活動861件、自然災害(地震・雨)200件などが報告されています。
変化3:夜間に空白がある
もうひとつ、求人の方向を左右する構造があります。消防防災ヘリコプターとの役割分担です。
令和7年版消防白書によると、消防防災ヘリコプターは令和7年4月1日現在で合計77機(消防庁5機、消防機関30機、道県42機)が、沖縄県を除く46都道府県域に配備されています。
ところが前述の消防庁事務連絡には、夜間運航ができる団体は消防防災ヘリを運航する55団体中12団体に留まっていると記されています。夜間運航には操縦士の「計器飛行証明資格」が必要であり、能登半島地震や豊後水道における地震など、夜間にかけて発生した災害で課題が確認されたとされています。
夜間、上空から情報を取る手段が限られている。 この空白を埋める役割がドローンに期待されており、だからこそ財政措置の対象が「夜間・目視外の限定変更」に絞られていると読めます。
変化4:市場は伸びているが、伸びているのは平時の業務
インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2026』(2026年3月27日発売)によると、2025年度の国内ドローンビジネス市場規模は4,973億円(前年度比13.8%増)で、2030年度には9,544億円に達すると予測されています。2025年度に最も大きかったのはサービス市場の2,711億円(前年度比18.1%増)で、インフラ・設備点検分野は1,003億円、2028年度には1,500億円に達すると推測されています。また、ドローン利用企業の7割以上が実装フェーズに入っているとされています。
ただしここで伸びているのは点検・測量といった平時の業務です。災害調査は、この平時の業務を持つ組織が災害時に担う役割であり、市場統計の「災害用」という独立した枠として現れるものではありません。求人を考えるうえでは、この区別が重要になります。
今、転職希望者が知っておくべき3つのポイント
ポイント1:求人は「災害用」では出ない
繰り返しになりますが、災害調査専任の募集はほとんどありません。北海道が令和7年4月に公表した「災害時ドローン活用ハンドブック」は副題に「平時と災害時をまたぐシームレスなドローン活用」を掲げ、平時からの積極的な活用が重要だとして、①運用スキルとノウハウの蓄積、②法制度への理解促進、③体制整備と運用フローの確立、④災害時の活用イメージの明確化・拡大、⑤関係機関との連携強化という効果を挙げています。
求人を探すときは「災害調査」ではなく、点検・測量・空撮といった平時の業務名で探すほうが実際の募集に当たります。
ポイント2:自治体側の受け皿が3方向に分かれている
同ハンドブックは、地域の体制整備を次の3類型で整理しています。転職の経路として、それぞれ性質が異なります。
| 類型 | 内容 | 転職経路としての性質 |
|---|---|---|
| ①自治体内での人材活用(部局横断) | 建設・農業・林業・環境・広報・消防など平時から使う部局と連携しチーム組成 | 公務員採用が入口。ドローン枠の採用ではない |
| ②民間企業・団体との連携 | 業務でドローンを使う企業等と「災害連携協定」を締結 | 中途採用で最も現実的 |
| ③地域住民との連携 | 消防団やドローンを運航できる地域住民と協力スキームを整える | 居住地から参加可能。公務災害の対象 |
②の実例として、大分県が2023年3月9日に大分県ドローン協議会と「災害時におけるドローンによる緊急被災状況調査に関する協定」を締結し、同年6月1日から活動を開始した事例が記録されています。同県は災害時に派遣する民間事業者を固定せず、経験事業者を増やす取組を行っているとされており、受け皿が広がる方向にあると考えられます。
①の実例としては、栃木県さくら市が職員からの公募により「さくら市ドローン活用チーム」を発足させ、様々な課から14名をドローン操縦者として育成した事例が紹介されています。
ポイント3:評価されるのは操縦技術より「調整と撮影設計」
能登半島地震の記録から挙がっている課題は、操縦技術とは別の領域に集中しています。同ハンドブックに収録された課題整理では、次の3点が挙げられています。
- 自治体内でのドローンの理解不足……どのようなことに活用できるかの理解が不十分で、民間企業からの説明が必要となった。ドローンに関する指揮命令系統が定められておらず、迅速な判断ができなかった
- 手続きの不透明性……自治体・民間企業ともに災害時に飛行させる際の手続きを把握しておらず確認に時間を要した。緊急用務空域ではヘリとドローンの運航調整が必要になるが、運航調整を担う部局が定まっていなかった
- 撮影データに関する認識不足……自治体が求める撮影データの要件が民間企業側に十分に伝わっておらず、撮影の取り直しが発生した
つまり需要があるのは「飛ばせる人」ではなく、「手続きを理解し、相手の判断に使える形で撮れる人」だと読めます。
これから求められること
公表資料から読み取れる方向性は、次の3つに整理できます。
1. 夜間・目視外への対応……消防職員向けの財政措置が一等(夜間・目視外の限定変更)に限定されていること、消防防災ヘリの夜間運航が55団体中12団体に留まることの両方が、この方向を示しています 2. 平時業務との兼務を前提とした働き方……さくら市の事例が示すとおり、専任ではなく組織横断で担う形が広がっています。人事異動があっても対応できる体制づくりが意識されています 3. 手続きの事前整備……飛行許可の連絡先、運航調整の担当部局、撮影要件の共有。能登半島地震で課題となった部分であり、ここを理解している人材の価値が上がると考えられます
よくある質問(FAQ)
Q. 災害用ドローンの求人は増えていますか。
A. 「災害用ドローン」という名前の求人が増えている、という確認はできません。増えているのは財政措置と自治体側の受け皿であり、実際の採用は平時の業務(点検・測量・空撮など)として行われています。消防庁の調査で人員不足が最大の課題とされていることから、人への需要そのものは存在すると考えられます。
Q. 市場が2030年度に9,544億円になるなら、災害分野も伸びますか。
A. 市場予測の伸びの主軸はインフラ・設備点検などの平時のサービス領域です。災害分野が独立して同じ比率で伸びると考えるのは正確ではありません。ただし平時の点検・測量業務を担う事業者が災害時の実働部隊になる構造のため、間接的には関連します。
Q. 一等(夜間・目視外の限定変更)を取れば有利になりますか。
A. 公的機関が求める水準の目安にはなると考えられます。ただし消防職員向けの財政措置の対象範囲という位置づけであり、民間事業者の採用要件として一律に求められているわけではありません。志望する立場に合わせて判断するのが現実的です。
Q. 消防士や自治体職員にならないと関われませんか。
A. そうとは限りません。災害連携協定を結ぶ民間事業者という経路があり、転職ではこちらのほうが現実的です。また居住地の消防団という入口もあり、北海道のハンドブックでは消防団員は公務災害の対象となるほか、消防庁から機材の購入や研修機会の提供などの支援制度もあると整理されています。
Q. 2026年に準備を始めるのは遅いですか。
A. 遅いとは考えにくいです。消防職員・消防団員の資格取得費用の財政措置は令和7年度からであり、自治体側の体制整備もまだ進行中です。北海道のハンドブックが令和7年4月、国土交通省水管理・国土保全局の「災害復旧事業におけるデジタル技術活用の手引き」が令和7年3月に公表されていることからも、制度と運用の整備が続いている段階だと読めます。
まとめ
2026年の災害用ドローンの求人トレンドは、次のねじれで整理できます。
- 予算はついた……機体(令和4年度〜)、運用のソフト・ハード両面(2024年〜)、資格取得費用(令和7年度〜)と、財政措置の対象が段階的に広がった
- 人が足りない……消防庁の調査で最大の課題は「操縦者の育成や運用体制上の人員不足」(59本部)で、機体性能の課題(18本部)を大きく上回る
- 夜間に空白がある……消防防災ヘリの夜間運航は55団体中12団体。財政措置が「夜間・目視外の限定変更」に絞られているのはこの裏返しと読める
- ただし求人は「災害用」では出ない……実体は平時の点検・測量・空撮。災害対応はそこから派生する役割
需要の行き先は、平時に飛べて、手続きを理解し、相手の判断に使える形で撮れる人です。災害調査を目指すなら、災害対応の勉強から入るのではなく、平時の業務で実績を作ることが遠回りに見えて最短になると考えられます。
関連記事として2026年のドローン警備 求人トレンド|「守る施設は増え、巡回車と基地局は減る」ねじれから需要の行き先を読む、業界全体の見通しは2026年のドローン業界 将来性トレンド|市場・政策・制度の3方向から見た4つの変化もご覧ください。
参考にした一次情報
- 総務省消防庁 事務連絡「令和7年度地方財政措置(消防庁関係)」(令和6年12月27日)
- 総務省消防庁「消防の動き」令和4年2月号「無人航空機の災害時における活用状況等調査について」(調査時点:令和3年6月1日)
- 総務省消防庁「令和7年版 消防白書」(消防防災ヘリコプターの保有状況/令和7年4月1日現在)
- 北海道経済部AI・DX推進局DX推進課「災害時ドローン活用ハンドブック」(令和7年4月)
- 国土交通省水管理・国土保全局「災害復旧事業におけるデジタル技術活用の手引き」(令和7年3月)
- インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2026』(2026年3月27日発売)※市場規模は同報告書の公表値
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災害用ドローンの分野は、求人の名前と仕事の実体がずれているため、求人サイトのキーワード検索だけでは全体像がつかみにくい領域です。「災害調査に関わりたい」という希望を伝えたうえで、平時の業務としてどこから入るのが近いかを逆算するほうが現実的です。
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